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ミッドナイトクロス
DATA

原題:Blow Out ……1981年
クエンティン・タランティーノがベタ褒めして再評価されたブライアン・デ・パルマ監督の「ミッド ナイトクロス(原題Blow Out)」。
独り言
殺しのドレス」でデ・パルマに魅了された小生のこの作品に寄せる期待はものすごかった。公開初日には行けなかったが、3日目だったか4日目だったかに胸をときめかせて見に行った。テンポよい展開と、デ・パルマお得意のカメラワークにニコニコしながら食い入るように見ていた。主人公のジャックが謎を解いていくときにオーディオ・テープや写真のフィルムを使うが、その作業している姿 を見せることで観客に主人公と同じような発見の驚きを与えてくれる。ジョン・トラボルタってなかなかいいじゃない(当時、「サタデー・ナイト・フィーバー」のイメージしかなかったので)なんて思ったりもしていた。が、あのラストは納得がいかん! 観客をアッと言わせることに至上の喜びを感じるデ・パルマのことだから、「君たちの思っているとおりのラストにはならないよ〜」なんて考えたのかもしれないが、小生には納得できなかった。映画館からの帰り道、ラストはこうあるべきだったのにとぶつくさ言いながら電車に揺られていた。
キャスト
主人公のジャックを演じたジョン・トラヴォルタは後にタランティーノの「パルプ・フィクション」でブレイクすることになるし、サリー役のナンシー・アレンは、監督であるデ・パルマと結婚し(破局を迎えてしまうが)、その後「ロボコップ」のヒロインとして世に広く知られるようになる。実はこの二人、「ミッドナイトクロス」以前にデ・パルマの「キャリー」にそろって出演している。主人公のキャリー(シシー・スペイシク)をいじめるクリスがナンシー・アレン(デ・パルマの「殺しのドレス」「悪夢のファミリー」にも出演)。クリスのボーイフレンドで、キャリーに豚の血をぶっかけるというなんとも凄まじい役を演じたのがジョン・トラヴォルタだった。さらに、バークというちょっとアブノーマルな殺し屋を演じたジョン・リスゴーはデ・パルマの「愛のメモリー」に、メイニー・カープ役のデニス・フランツは「殺しのドレス」に出演していた。デ・パルマお気に入りの役者をそろえた映画と言える。尚、ジョン・リスゴーはその後「レイジング・ケイン」でも使っている。
盗聴器
この映画では、盗聴器を身に付けたサリーが大変な目にあってしまうが、実はこの設定はオーソン・ウェルズが監督した「黒い罠」から拝借したものと思われる。「黒い罠」で、チャールトン・ヘストンの演じる主人公がオーソン・ウェルズの演じる警官の罪を暴くために無線機を用いる。しかし、1958年の作品なので、その無線機は数メートルの距離でないと受信できず、チャールトン・ヘストンは見つからないようにしてすぐ近くをついていかなければならない。そこにサスペンスが生まれている。「ミッドナイトクロス」は1981年の作品だけにもっと離れた距離でも受信できるのだが、それが仇になってしまうところはオリジナルをそのまま使わずに自分なりのアレンジを常に心がけているデ・ パルマらしい。ただ、受信しているジャックがサリーの危機を知って後を追う場面に、デ・パルマの 得意技であるスローモーションを使うのはただのパクリじゃないよっていうデ・パルマの言い訳だろ うか。
証拠
もうひとつ、ジャックは偶然録音した音と雑誌に載った写真から事件の真相を突き止めるが、これも よく似た設定がすでにある。ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「欲望(原題Blow‐up)」であ る。――タイトルまでパクッたのだろうか? 主人公トーマス(デビッド・ヘミングス)が偶然撮影し た写真によって殺人事件を証明しようとするのである。また、トーマスは部屋の中に拡大した写真を 貼っておくが何者かに盗まれてしまう。ジャックも録音テープを盗まれて呆然とするが、デ・パルマは その場面でカメラを360度回してデ・パルマらしさを出している。これも言い訳っぽいかな。こんなこ と考えずに見ればテープを確認するジャックの姿を見事に捉えた演出としてカメラワークを評価でき るのだが……。
劇中劇
オープニングに出てくるちょっと奇妙なホラー映画。実はジョン・カーペンター監督をパロッたもの と思われる。デ・パルマの「ファントム・オブ・パラダイス」での主観移動カメラ(カメラを登場人物の目の位置に置き、登場人物の動きに合わせて移動させる)と非常によく似たシーンをジョン・カーペンターは「ハロウィン」で見せた。デ・パルマは「ハロウィン」とよく似た設定のこの劇中劇を笑いのネタにしてしまう。それどころか劇中劇の殺人鬼の姿はジョン・カーペンターによく似ているらしい。なんとも大人気ないデ・パルマである。
ちなみに、デ・パルマは「ボディ・ダブル」でもオープニングを劇中劇にしている。